特集
ブレンダーとパティシエ――。超一流の“調和”

柔軟であること。そして“いびつ”な男の美学

東京・京橋にある「Toshi Yoroizuka TOKYO」。目の前でデザートを仕上げる“デザートライブ”を楽しみながら、お酒も味わうことができる店のカウンターに座り、2人の対談は始まった――。目の前のグラスに注がれているのは、美しい琥珀色をした「富士山麓 樽熟原酒50°」。その豊かな味わいが、徐々に2人の口を滑らかにしていった。

 

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■我々が憧れたウイスキーの似合う男

 

田中 鎧塚さんはよくお酒を飲まれるのですか?

 

鎧塚 お酒は大好きで、何でも飲みますよ。

 

田中 やはりヨーロッパで修行されていたときは、ワインを?

 

鎧塚 お酒の文化は国によってさまざまだから面白いですよね。フランスはやっぱりワインですし、オーストリアにいたとき、オーナーの家には扉を開けたら小さな樽があったんです。

 

帰ってきたらショットグラスでキュッと飲むのですが、ロシアのウォッカのように体を温め、うがいの役割もあるそうです。

 

田中 国ごとに独自のスタイルがありますよね。そうした海外のお酒の文化を知るのは楽しいですね。

 

鎧塚 ブレンダーというのは、ウイスキーだけでなく、ワインなどすべてのお酒を網羅されるのですか?

 

田中 いえ、一般的にはウイスキー一筋という方が多いです。私の場合、ブレンダーのキャリアとしては“異端児”というか……。ビール会社に入って1年後にはナパバレーのワイナリーで働き、10年ほどはずっとワインの仕事をしていました。

 

その後、徐々にウイスキーにも携わるようになり、1999年にブレンダーに任命されました。2002年にケンタッキーに渡ってからは、フォアローゼズ蒸溜所(※1)でバーボンの製造に従事し、それ以降はウイスキーの世界にどっぷりと浸かっています。

 

画像:鎧塚俊彦氏

鎧塚 ケンタッキーでバーボンづくりをされたのですか。僕は小さい頃から映画が好きなのですが、アメリカってショットグラスで飲みますよね。それを映画で見ていて、いつもかっこいいと思っていました。あの頃と今のカッコ良さって違いますよね。

 

今だと、ブラッド・ピットやジョニー・デップですが、当時はハンフリー・ボガードとかジャン・ギャバン。男くさいというか、独特なオーラがある。そして、ウイスキーやバーボンがよく似合う。実は、そういうのに憧れていたんですよ。

 

田中 たしかに、アメリカはそういうお酒の文化がありますね。鎧塚さんは多くの国を巡っていらっしゃるから、私の知らない世界をよくご存知だと思います。しかも、レストランだけではなく、さまざまな国のもっと生活に根ざしたお酒のスタイルに触れられてきたのではないでしょうか?

 

国によって家庭で出される料理が違うから、お酒の飲み方も変わってきますよね。そうしてたくさんの文化に触れ、多くのことを吸収されたと思うのです。

 

鎧塚 おっしゃる通り、たくさんのことを学びましたし、あらゆる文化を吸収することはとても大事だと思っています。ただ一方で、職人であるうえで“いびつ”であることも大事だと思うんですよ。昔の職人は、どこか頑固で、そこに誇りを持っていた。いろんなものを吸収して混ぜ合わせるだけではなく、頑なに何かを守り続ける。

 

画像:「何やっているんだろう……」と 思いながら、こだわり続けるのが 男の“いびつな”美学ですね。/鎧塚俊彦

鎧塚 例えば、ウイスキーなら、ブレンドして複雑味を出す方法もあれば、シングルモルトにこだわる方法もあるじゃないですか。チョコレートの世界もまったく同じで、世界中からカカオ豆を集めてブレンドするものと、一つの豆にこだわるものがあるんです。

 

僕の場合は、エクアドルにカカオ農園(※2)を作ったので後者になりますが、1種類の豆だけでもすごく奥が深く、ローストする時間を少し変えるだけで味が大きく変わるんです。一つの豆でも分からないことがたくさんあるから、世界中からいろいろな豆を集める必要もない。

 

まあ、どちらが正解ということもないのですが、僕にとってのチョコレートづくりは、一つの豆にこだわる“いびつ”なところがあるんですよね。

 

「何をそんなにこだわっているの?」と人から言われ、自分でも「何をやっているんだろう……」と思いながらも、一つのことにこだわり続ける“男の美学”ってあると思いませんか?

 

田中 ブレンダーはさまざまな原酒をブレンドしてハーモニーを生み出すのが仕事ですが、その中でもやっぱり譲れないものはあります。

 

いいウイスキーをブレンドするには、いい原酒を揃えなければならない。だから、原料の選定から、原酒づくりの全工程において、強いこだわりを持って取り組んでいます。

 

 

※1:フォアローゼズ蒸溜所/1888年、創業。アメリカ・ケンタッキー州にあるバーボン「フォアローゼズ」の蒸溜所。禁酒法時代にも操業を許され、バーボン産地・ケンタッキー屈指の歴史を誇る。2002年からキリンが親会社となった。

※2:カカオ農園/2010年、エクアドルに開設した無農薬栽培の農園「Toshi Yoroizuka Cacao Farm Ecuador」。エクアドルで醗酵、乾燥させたカカオ豆を空輸し、自社でロースト、粉砕、選別、コンチング(精錬)など、すべての工程を行っている。「Bean to Bar」の先駆け。

 

 

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