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For M的ブツヨク話~Must Buy Brand! vol.003|グレンソン インタビュー

オールドファッションからモダンスタイルへ

良く言えば「伝統と格式に則った、正統派の紳士靴」である。しかしグレンソン社の現オーナー、ティム・リトルの言葉を借りれば、多くの英国靴は「退屈きわまりない存在」と言えなくもない。グレンソンも数年前まで、その域を出なかったと振り返る。

「前オーナーから、グレンソンの仕事を手伝って欲しいと請われ工場を訪れてみると、自信のなさそうな職人たちが、オールドファッションの域を出ない靴作りを続けていました。彼らの仕事ぶりは丁寧ですが、そこに情熱は感じられません。なかには『街を歩く人々を眺めていても、誰も俺たちが作った靴を履いてないじゃないか』と言う職人もいました。出来上がった靴も悲しい表情で、歴史あるシューメーカーとして名を知られるグレンソンが、いったいどうしてしまったのだろうとしばらくは、どうしたらよいのか悩みました」

広告代理店に勤務する傍ら、1996年に自身のシグニチャーを冠したシューズブランドを立ち上げたティム・リトルは、クラシックな英国靴にリスペクトを捧げながらも、モダンスタイルに相応しいシューズデザインを確立していた。90年代以降ロンドン・ユースカルチャーの発信源となっていたキングスロードに自身のアトリエを開くと、海外でも高く評価され、日本でもトゥモローランドやバーニーズでも展開されている。彼がグレンソンにディレクターとして参入するのは2000年に入ってのこと。ここからグレンソンは、それまでのカテゴリーを一新。英国生産のドレスラインは上級ラインを設定し、レギュラーモデルはラストもデザインも変更するとともに海外に生産拠点を移すと、同時にカジュアルラインの充実までも図ったのである。なかでも目を引いたのは、アメリカンワークブーツに見られるホワイトソールの採用だ。「デザイン過剰なイタリア靴とも、退屈なイギリス靴でもない、新しい靴を創りだしたかったんです」。

画像:グレンソン

英国靴に勇気と希望を

イギリスはもとより世界中の若い世代にとって、本格的な英国靴は硬くて重くて疲れるものと思われているはずだ。「それまでスニーカーしか履いてこなかった若い世代に、革靴を履いてもいいかなと思ってもらえるような靴を作りたかった」とティムは言う。

「グッドイヤーウェルト製法の100年を超える伝統に新しい感覚をミックスするには、どうすればよいかを考えたとき、真っ先に浮かんだのはビブラム社のホワイトソールとのコンビネーションでした。現在はXLソールに変更しましたが、アメリカの伝統であるワークブーツの耐久性とファッション性を英国の伝統と組み合わせたら、きっと良い方向に向かうと考えたのです。グッドイヤーウェルトでも、ソールを薄く軽量なものに変更することは可能です。もちろん高度な技術を要しますが、グレンソンにはそれを実現する技術力がありました。このことをきっかけに、古き良き英国靴の良さを知る40代より上の世代が納得しながら、20代の若い人たちも履けるコレクションが徐々に揃ってきたのです」

コレクションを再構築するにあたり、ティムは工場に足繁く通ったという。職人たちと向き合い、対話することから始めたのだ。永い間、同じ作業を繰り返してきた職人たちは、それまでと違う作業の要求に驚き戸惑いながらも、次第にティムの情熱に動かされていく。ティムは彼らの技術を信じ、必ず出来るという信念とともに対話を繰返す。実際に出来上がった商品に大量の発注が届き、工場のラインが忙しくなると、職人たちは自分たちの仕事振りを実感することができたのだろう、工場には活気が戻り、彼らの顔が生き生きと輝きだした。

傍らにいたジョーが話を補足する。「グレンソンを、まったく新しいブランドに変えてしまったわけではありません。あくまでもグレンソン社の伝統を重んじ、リスペクトしながら、新たなことに少しだけ挑戦する機会をティムは与えてくれたのです。新たなカテゴリーやモデルを創出するだけではなく、グレンソンが保有するかつてのアーカイブの復刻とモディファイも、これまでにないほど行われています」。

画像:グレンソン

新生グレンソンが英国靴業界に風を吹き込む

その言葉通り、グレンソンはビジネス、フォーマルに相応しい伝統的な英国靴のコレクションを決して疎かにしていない。金融街であるシティ北東部のリバプール・ストリート駅に近いグレンソンのショップでは、今もセミブローグの伝統的なモデルの人気が高く、朝早くからバンカーストライプのスーツに身を包んだ紳士が、昔ながらの英国靴を買い求める。トレンドエリアのショーディッチ、ブリックレーンのショップでは、スニーカー履きの若者がホワイトソールのスエード靴を嬉しそうに買いにくるという。

「1950年代、英国の靴作りに活気があった頃、多くのブランドからニューデザインが次々と創り出されていました。やがて安価な大量生産の靴が街に広がると、本格靴は衰退し、21世紀に入ると完全に自信を失ってしまったんです。しかし、いま新生グレンソンが英国靴業界に風を吹き込むことで、業界全体に少しでも勇気と希望を取り戻すことができたのではないでしょうか」

この情報は2012年7月6日現在のものです。

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