連載
消えたオトコ社会 生きづらい世界で俺たちは

「男は黙ってサッポロビール」の呪い

■「男は黙ってサッポロビール」

 

二村:さっきの愚痴の話で言えば、ママさんも吐き出す相手を選んでいて、くらった毒を名越先生なら中和してくれると見込んで愚痴ったんじゃないでしょうか。さらに名越さんは、それをこの対談のネタにしてくださった。

 

つまり、「心の毒」というのは取り扱いをまちがえなければ、溜め込んだり増幅したり爆発四散させたりせず、薄めて処理していく方法があるということですよね?

 

名越:うん。今の話を聞いて、岡本太郎を思い出しました。本人は明るく生きなければいけないと説いているんですけど、写真を見ると憤懣やる方ないような顔をしている。「養老天命反転地(※1)」を作られた、芸術建築家の故・荒川修作(※2)さんもいつも不機嫌なんです。

 

彼らは凡人の何百倍も怒り性だと思う。でも、怒りは上手いことやれば、「太陽の塔」や「養老天命反転地」のようなすごいものが作れる。それを見た人は怒らないですから、昇華させることはできるかもしれない。

 

二村:怒りや毒をマネージメントするっていうか芸術的に昇華させるって、アーチストだけの特権じゃなく、一般の人にも必要です。そうしないと感情というものは暴走しますから、自分のほうが正しいと思いこんでいる者同士で戦争になるか、自己肯定感を喪失した鬱病患者や自殺者が増えることになる。

 

名越:今の時代は、全世界的に怒りが溜まりまくっているから、まさに芸術家だけの問題ではない。でも、女性のほうがストレス発散は得意ですよね。男はさっきの話じゃないけど、急性アルコール中毒の一歩手前までいって、やっと吐き出せる。しかも、お行儀の悪い吐き出し方。

 

二村:共感しあって許しあう教育を受けていないですからね。女性のように「つらいね~」なんてコミュニケーションしあってお互いの毒を浄化する技術を持ってない。

 

名越:相変わらず、三船敏郎さんの「男は黙ってサッポロビール!(※3)の世界ですよ。

 

二村:高度経済成長期にヒットした広告のコピーですね。その文言が流行したということは1970年当時の男性は、みんな黙ってお酒を飲んで耐えることにヒロイズムというか人間的な価値を見出していたということですか?

 

名越:そうそう。しかも当時のヒーローには、高倉健さんもいましたからね。あの人は最後に殺しまくります。

 

二村:映画『唐獅子牡丹』(※4)や『昭和残侠伝』(※5)での高倉健さんは、刑務所を出所して更生しようと忍耐を重ねるんだけど、最終的には悪い奴らを皆殺しにするわけですよね。つまり高度成長期の美徳は、まずは「我慢」すること、でも最後には「ぶちギレていい」と教わってきた。

 

名越:その体制は、平成の今も変わっていないかもしれない。基本的に日本人はすごく優しいんだけど、一度キレたらとことんやるみたいな二面性を持ち併せている。

 

二村:もともと日本人ってキレやすかったんですか?

 

名越:でも、基本的には農耕文化ですからね。我慢して畑を耕しても台風が来たり、ゴジラが来たりしてゼロになる。けれど、その土地を離れずにまたやり直す。忍耐の民族ではあるけど、「そこまでやったらやるぞ!」みたいにフェーズが変わる瞬間がある。

 

画像:2

■断片を切り取ってキレてもいい社会を生んだ、ネットカルチャー

 

二村:支配と被支配の関係もありますよね。恋愛の場面でよく見られることですが、支配されている人は、それを望んで支配されているのに、そのことにずっと怒っている。もしかしたら、ぼんやりとしたイライラの感情をキープしたいために、わざと支配され続けているのかもしれない。でも、それって一種の自傷ですよね。精神の健康をそこなう。

 

名越:そういうときに「ハマる」っていう表現をしますよね。ブラック企業にハマるとか。

 

二村:これを言うと怒られるんだけど、そういう場合には被害者の側にも、そうせざるをえないなんらかの理由がある。

 

名越:その状態からは、なかなか自分で回復できないんですよ。あえて無機質的に言うと、あなたは自らそれを招き入れている部分がある。でも、それは完全に無意識のもの。だから、あなたのせいではない。それを解放するために、僕にできることがあれば何かするよっていう。

 

これは三段論法ではなく五段論法というべきものですね。でも、この話が最近はほとんど効かない。

 

二村:最初に「原因はあなたにもある」と指摘すると、そこでもう、ぶちギレる。

 

名越:そうそう。治療が進まないし、社会が改善しないんですよ。これまで、日本では五七五がもっとも短いセンテンスだったけど、流行語大賞とかはそれよりも短いセンテンスでしょ? 「日本死ね(※6)」とか。そういう短絡さが、物事の段取りを説明する途中で「キレていい」という免罪符になっている。「自分なりに断片を切り取ってキレてもいい」、そういう社会が成り立ってしまうと言葉が文脈を成さないんです。

 

二村:せめて「五七五」、できれば「五七五七七」まで聞いてもらわないと議論も何も始まらないのに、脊髄反射でキレられてしまっては、そもそもコミュニケーションにならない。

 

名越:この現象って、最近のことだと思うんですよ。ネットの影響が大きいんじゃないかな。

 

二村:せっかちですよね。近年のAVは女優さんの質は上がりましたが、VHSからDVDに移ってから作品のクオリティは落ちたんです。作る方は時間を無限に使えちゃう、買う方も長ければ長いほど喜ぶという馬鹿みたいな風潮がある。

 

それって、先入観で「いらない」って判断したコンテンツには最初から付き合わないってことなんですよ。VHSに比べると、ほしいシーンまでひとっ飛びでサーチできるわけだから。

 

名越:AVは前段のシーンが大事なのにね。そこをしっかり観ないと、僕は萌えない(笑)。

 

※1:養老天命反転地(ようろうてんめいはんてんち)……岐阜県養老町の公園に作られた施設。人間本来の感覚を再認識することをテーマに荒川修作によって作られたモダンアート作品

※2:荒川修作(あらかわ・しゅうさく)……1936年7月6日~2010年5月19日。愛知県出身の芸術家で国内外で活躍。代表作に岐阜県に作られたテーマパーク「養老天命反転地」がある

※3:男は黙ってサッポロビール……「サッポロビール株式会社」が1970年に三船敏郎を起用して作成した広告のキャッチコピー

※4:唐獅子牡丹(からじしぼたん)……監督・佐伯清、主演・高倉健の映画『昭和残侠伝』の第2作目。昭和初期を時代設定とした任侠映画

※5:昭和残侠伝(しょうわざんきょうでん)……監督・佐伯清、主演・高倉健の映画。高倉健の代表作でもあり、全9シリーズ作られている

※6:日本死ね……「ユーキャン 新語・流行語大賞 2016」のトップ10にノミネートされた言葉。なお全文は「保育園落ちた日本死ね」

 

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この情報は2017年2月18日現在のものです。

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