連載
不惑男の“熱”時計 vol.6【前編】

創業以来ずっと質実剛健、だから支持される――「Sinn」

男四十……まもなく「不惑」を迎えるビジネスマンに迷わず手に入れたい腕時計を紹介するシリーズ企画、連載6回目は「Sinn」(ジン)をピックアップ。知っている人は知っている、でもはじめてブランド名を聞く方にもぜひ知ってほしい。なぜならこの無骨なケースの中に「これでもか!」というくらいに“緻密な機能”と、“作り手の思い”が詰まっている時計だから。【前編】【後編】と2回にわたってジンの魅力をお届けしよう。

 

写真:高橋宏樹   文:小泉庸子

ジン

ドイツ

ジン

1961年、ドイツ空軍パイロットで飛行教官でもあったヘルムート・ジンが、プロフェッショナル用パイロット・ウォッチを製造するためにドイツ・フランクフルトで創業。1994年、ローター・シュミットが経営を引き継ぐと、幅広い分野の技術の開発に着手。1997年、精鋭部隊のためのスペシャルモデル「EZM」を部隊と共同開発、ファーストモデルを発表する。EZMとは出撃用計測機器の頭文字で、これまで17モデルが製作されている。2012年、アーヘン応用科学大学航空宇宙技術学部とともにパイロット・ウォッチの技術規程「TESTAF」(テスタフ)を開発。この基準は一企業の規格に留まらず、2016年にドイツ工業規格「パイロット・ウォッチ規格DIN8330」として施行されるに至っている。

 

■パイロットのためのパイロット・ウォッチ

 

ずっしりとした存在感――見る者にそんな印象を与えるのがドイツのブランド「ジン」の時計である。時計の知識がある方なら、ミッション性の高い時計を作るメーカーだとご存知だろう。なにしろ、正しい社名は「ジン スペツィアルウーレン」といい、日本語に訳せば「ジン特殊時計会社」。その名に“特殊”な時計を制作するという使命を盛り込んだ会社なのである。

 

「ドイツ軍のパイロットであり飛行教官でもあったヘルムート・ジンが、それまでの経験を活かし、プロフェッショナル・パイロットのための時計を作ることを目的にブランドを興しました。

 

彼にとって、当時のパイロット・ウォッチはプロの飛行機乗りたちのニーズを満たしていなかったんでしょう。そこで作られたのが、視認性・機能性が高くて堅牢な、コックピットに装備される計器のような腕時計でした」

 

そう説明してくれるのはジンの日本における正規代理店である株式会社ホッタのウォッチ&ジュエリー事業部の舘野義明氏である。

 

戦争に飛行機が使われるようになった第一次世界大戦以降、あまたの時計メーカーがパイロット・ウォッチを作ってきた。多くの時計が世に送り出され、いまなお続く人気モデルも多い。ではジンが創業した1961年当時の航空事情はどうだったのか。第二次世界大戦末期に実用化されていたジェットエンジンが採用され、高速化したジェット戦闘機が主流になったころである。パイロット・ウォッチに求められる機能や性能は、第二次世界大戦時のそれとは大きく変容していたのだ。

 

「彼が最初に作った時計を分類すればパイロット・ウォッチなのかもしれません。でもジンは“プロのパイロット”が使う時計を作ったのであって、単に目新しいパイロット・ウォッチを作ったという意識はなかったかもしれません」

 

画像:「Sinn(ジン)」

 

■徹底して“現場の声”に耳を傾ける

 

こうした特定の職業を徹底的にサポートするモノ作りの姿勢は、いまなお同社に継承されている。それは1997年から登場している「EZM」シリーズに明らかだ。

 

「EZMとはEINSATZ ZEIT MESSER(アインザッツ・ツァイト・メッサー)の頭文字から名付けられたもので、訳すと“出撃用計測機器”となります」

 

ものものしい名前がついているのもそのはずで、ファーストモデルである「EZM1」はドイツの特殊部隊「ZUZ」(税関中央援助グループ)、セカンドモデルの「EZM2」は対テロリズム特殊部隊「GSG9」のために作られたもの。ZUZ、GSG9ともに、つねに命と隣り合わせの任務を遂行する部隊である。そんな隊員たちの最高のパートナーとなるべく、誕生したのがEZMシリーズであり、出撃用計測機器という名前もダテじゃないのだ。

 

「EZMに一貫してあるのは、“使うためだけの時計”ということ。そのためには現場の声を徹底的に吸い上げ、時計の機能に落とし込んでいく必要があります。また特殊な任務を遂行するにあたってヒューマンエラーはあってはならないものですが、とはいえ時計には人間的な側面が多い。つまり、エラーが起こりやすいアイテムと言えるでしょう。

 

そうしたエラーをいかになくすのか。これはEZMの範疇を超えて、『時計をどう考えるのか』という、ジンの時計作りに与えられた命題なのではないかと思いますね」

 

各種検査を第三者機関にゆだね、公正を期するのもジンの特徴だが、その最たるものが、2012年に4年の構想期間を経て策定におよんだパイロット・ウォッチの技術基準「TESTAF」(テスタフ)だ。これはジンの社長であるローター・シュミットと、アーヘン応用科学大学航空宇宙技術学部のフランク・ヤンザー教授とが共同で策定したもので、創業以来、パイロット・ウォッチを作り続けてきたからこそ知りえた安全へのノウハウを凝縮した基準である。

 

このTESTAFは、2016年3月に「ドイツ工業規格」(DIN)内にパイロット・ウォッチのための新規格「DIN8330」を誕生させるに至っている。

 

パイロット・ウォッチの技術基準の必要性を一介の時計メーカーが説き、また制定を主導するというのも、厳しい時計を作り続けてきたジンらしい行為と言える。

 

ジンの存在感、それは「時刻を見る」という時計が本来持っている機能に対して、メーカーとしてどう考え、どうアプローチしてきたか、そんな日々の集大成なのだ。

 

 

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