連載
映画『リトル京太の冒険』作品レビュー

大人にも訴えかける京太の「明らめ力」

◆Story(『リトル京太の冒険』HPより抜粋)
あの日以来、どこに行くにも防災頭巾を手放さない桐生に住む12歳の少年・京太。再び自分たちの町に戻ってきた大好きな外国人英語教師・ティムと単語帳を片手にカタコトの英語で会話をするのを楽しみにしている。そんなある日、アメリカからモリーという女性かやってくる。海外からきた訪問者に沸く京太たちだったが、そこには重大な問題が。ショックを受けた京太はある行動に出るが、それは彼ら二人だけでなく、京太の母・絹子や周囲の人々が、震災後にそれぞれの心の奥にしまっていた記憶を呼び起こすことになる。少年の成長と震災後の“大好きな僕の町”への揺れ動く思いを5年の歳月をかけて描いた感動のストーリー。

 

◆まるでドキュメンタリーのようなストーリー

映画に浄化作用があるとするなら、ここで紹介する『リトル京太の冒険』は鑑賞後に観る者の背中をふっと押してくれる力がある。それは、この作品が『明らめる』ことの大切さを教えてくれるからだろう。

 

小学生の主人公・京太(土屋楓)は、授業中のみならず真夏の校庭の朝礼でも防災頭巾をかぶっている。作中に「震災」というセリフは一切出てこないが、どことなく人影がまばらな街、廃墟になってしまった遊園地を見る限り、ここが少なからず原発の影響を受けた場所だと分かる。京太は「3・11」以来、片時も防災頭巾が手放せないのだ。

画像:上・外国人英語教師のティム(アンドリュー・ドゥ)、下・京太の母絹子(清水美沙)

そのようなシチュエーションで母(清水美沙)、外国人英語教師のティム(アンドリュー・ドゥ)、京太の友達である詩織(木村心結)といった京太を取り巻く人々の“いつもの日常”が淡々と展開されていくストーリーは、市井の人をファインダーに収めたドキュメンタリー映像のようなリアリティがある。

 

防災頭巾を手放さない京太のかたくなな気持ち、そんな京太を救えずに悩む母親のもどかしい気持ち……登場人物らは仕事や恋愛の悩みとは別次元の不安や疎外感を感じている。まさにこの瞬間、同じ国のどこかでこんな風に暮らしている「誰か」のことを想像せずにはいられない。

 

◆あの日から6年、今だからこそ劇場で観ておきたい

日本の今を映し出すリアルタイムな設定もさることながら、知らぬ間に作品の世界観に入り込んでいるのは、多くを語らない会話やユーモアを交えた小気味よいストーリー展開など、大川五月監督の繊細な情景描写が随所に息づいているからだ。

 

本作は大川監督にとって初の長編作品で、2013年「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」の短編部門でグランプリを受賞した『京太の放課後』、翌年に公開された続編『京太のおつかい』、『リトル京太の冒険』はこれらに続く三部作目となる。

 

以前『For M』編集部では「レクサス」と米国の映画会社「ワインスタイン社」が手がける短編映画プロジェクト「Lexus Short Films」をリポートしたが、本プロジェクトに日本人監督として抜擢されたのも大川監督で、ニューヨークで『Operation Barn Owl』を披露した。これらの短編作品はいずれも海外で高い評価を獲得した。

 

短い尺でストーリーを完結させ、なおかつ観る者の琴線に触れる作品に仕立てる。短編作品で培ってきた大川監督ならではの表現力が存分に発揮されているのが本作『リトル京太の冒険』なのだ。

画像:京太(土屋楓)

ここでは多くを語らないが、主人公の京太はストーリーが進むごとに「明らめて」いく。諦めるのではなく、なぜ自分が防災頭巾を手放せないのかを自らの力で明らかにしていくのだ。京太の、それでも前を向いて進もうとする気持ちに観ているこちらが勇気づけられる一方で、あらためて「3・11」の記憶を思い起こさせ、そこで負った傷は、月日だけが洗い流してくれるものではないことを痛感する。

 

あの日から6年――仕事のこと家族のこと、煩雑な日常のあれこれに奔走し、当時の記憶が風化しつつある今だからこそ、ぜひ劇場で観てほしい作品だ。

 

文:飯田辰慶(For M)

 

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『リトル京太の冒険』

監督・脚本:大川五月

キャスト:土屋楓、清水美沙、アンドリュー・ドゥ、木村心結、眞島秀和、ステファニー・トゥワイフォード・ボールドウィン

作中の音楽担当:HARCO(シンガーソングライター)

配給:日本出版販売

 

<上映スケジュール>

東京:シアター・イメージフォーラム(4/28まで)

愛知:名古屋シネマテーク(5/27~6/2)

京都:立誠シネマ(5/27~6/2)

 

<公式サイト>

『リトル京太の冒険』オフィシャルサイト

『リトル京太の冒険』公式Facebookページ

『リトル京太の冒険』公式Twitter

【Profile】

大川五月(映画監督)

東京都生まれ。日本大学芸術学部、NY コロンビア大学大学院で映画制作を学ぶ。コロンビア大の卒業制作『タイディ・アップ』は国内外のさまざまな映画祭で上映され、ハリウッドの映画祭では最優秀短編映画賞を受賞。2012年、「桐生青年会議所」のインセンティブプロジェクトとして短編『京太の放課後』を完成。同作は南米最大のブラジルは「サンパウロ国際短編映画祭」で観客が選ぶベスト10、ギリシャ、カタールなどの映画祭で最高賞を受賞。国内では、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」での優秀実写賞とサプライズ実写賞のW受賞、「下北沢映画祭」のグランプリなど、国内外の映画祭で好評を博す。2013年、Jリーグ20周年記念のショートフィルム『旅するボール』の監督・脚本に抜擢。完成後、カンヌ映画祭ショートフィルムコーナーを始め、多くの映画祭で上映。翌年には京太シリーズ続編『京太のおつかい』(2014)の発表後、レクサスと米国の映画会社「ワインスタイン社」が手がける短編映画プロジェクト「Lexus Short Films」の監督に抜擢され、『Operation Barn Owl』を手掛けた。本作『リトル京太の冒険』が長編デビュー作。

 

 

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この情報は2017年4月27日現在のものです。

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