連載
「個性」とは何か?――ジミー桜井インタビュー【前編】

トリビューターの世界的第一人者が追い求める“途方もない模倣”

活動の拠点をアメリカに移したのはここ数年の話。それまでは仕事をしながら日本国内で定期的にライブを行っていたジミー桜井だが、ジミー・ペイジを完全再現する超絶技巧は渡米前からすでに世界的な評価を得ていた(Photo by Diane Lynn)

 

「トリビュート(=賛辞・リスペクト)」の意思を持って、本家アーティストの楽曲やイメージを尊重しながら、そのアーティストの演奏(音質)や衣装などを忠実に再現するバンドのことを、「トリビュート・バンド」と呼ぶらしい。日本では、まだまだ聞き慣れない言葉だが、欧米ではひとつの音楽ジャンルとして、確固たるステータスを獲得しつつあるのだという。

 

そんななか、あの伝説のロックバンド「レッド・ツェッペリン」のリードギター、ジミー・ペイジのトリビューターとして「世界的第一人者」と称される日本人ミュージシャンがいる。衣装や楽曲を精密に再現するだけではなく、楽器やアンプ、エフェクター……と、過去の写真やライブ映像などから当時の使用機材までをも正確に追いかけ、「本物の蘇生」を志すギタリスト・ジミー桜井だ。

 

彼が「トリビュートを極めること」に生涯をかける“執念”の正体とは、果たして……?

 

文:山田ゴメス

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◆数年ではたどり着けない“ロックの深淵”

 

──まずは、ジミーさんとジミー・ペイジとの“出会い”について、お聞かせください。

 

ジミー桜井(以下、ジミー):僕がギターを始めたのは14歳のとき。そこで初めてロックに触れて、「かっこいいなぁ……」と感動はしましたが、「レッド・ツェッペリン」は正直難しすぎて、聴く気になれなかった(笑)。

 

ところが、ある程度ギターを弾けるようになった17歳のころ、高校の同級生から「ツェッペリンのコピーバンドやらない?」と誘われ、改めてツェッペリンを聴いてみたら、ものすごく(自分の中に)入ってきちゃって……毎日自分を奮い立たせながら、必死に練習しました。「いつかこのソロ、絶対に弾いてやるんだ!」と。

画像:2枚目

音楽に携わっていない人間がジミー桜井の“やっていること”を理解するのは簡単ではないだろう。なぜなら、彼が追い求めている境地があまりにも常人離れしているからだ。だが、ジミー桜井はインタビュアーの素朴な質問に対して難解さを感じさせることなく、終始ていねいに答えてくれた

 

──中学や高校時代に憧れのミュージシャンに傾倒するケースは、わりとよくあるエピソードだったりします。しかし、そのモチベーションを今なお持続しているというのは、かなりの“レアケース”ではないでしょうか?

 

ジミー:たしかに「珍しくはある」かもしれませんけど、それが「おかしい」とは思っていません。だって、細かいディテールにこだわりまくって、すべての動画も録って……あらゆることをやってきたにも関わらず、「いろんなことが分かってきた」という実感が出てきたのは「30歳を過ぎてやっと」でしたから。

 

たとえば「ブルース」。黒人のブルースミュージックから派生したのが「ロックンロール」や「ロカビリー」であって、ツェッペリンのルーツにもブルースがあるんです。そういう背景って、若いうちにはなかなか理解できないじゃないですか。本を読んで、その知識自体を頭にたたき込むことはできても、体には染みついていない。

 

よく「YouTube」とかで、小学2年生くらいの子が上手にギターを弾いている動画がアップされていますが、あの子たちはブルースのスピリットまでは絶対に分かっていない。僕自身でさえ、いまだに「分かっている!」とは、とてもじゃないけど言えません(笑)。

 

技術面ひとつ取っても、ほんの1フレーズだって、「ピックのどの部分を当てたらこの音が出るのか」だとか「指先のどの部分で押さえたら、このチョークアップができるのか」だとか……さまざまな奏法があるわけで、そのような細部のディテールは最低でも10年以上、試行錯誤を繰り返さないと「やり方」も「やる意味」も理解できない。たかが1年や2年の“研究”でできることなんて、「とにかく大きい音で演奏する」程度がせいぜいなんです。

ジミー桜井の30年にわたるヒストリーを物語る動画『守破離』。全4部作のドキュメンタリー動画は「YouTube」で閲覧可能

 

◆ラジオと「YouTube」の大きな差

 

──根本的な質問になってしまうのですが、なぜ「最低でも10年以上の試行錯誤」が必要なのでしょう?

 

ジミー:実は、僕が30歳になって、ようやくできるようになったことを、ジミー・ペイジは10代ですでにやっていたんです。では、どうしてジミー・ペイジが10代でできたことが、僕は30代にならないとできなかったのか? これはもう「ジミー・ペイジと僕の生まれ育った環境が全然違うから」にほかなりません。

 

彼がギターを始めた時代は、もちろんレコーダーみたいな便利な物は家になくて、それこそ短波放送のラジオが流れてくるスピーカーに耳をくっつけて聴きながら、一音一音を拾っていた。つまり、瞬間瞬間で頭に残った音を「今のかっこいいから弾いてみようよ」って感じで“再現”していたわけです。その集中力って本当にすごい! だから70年代のバンドは“偉大”なんです。

 

対して僕の時代は、音源を録音して、さらにはゆっくり再生したりもできて……。今だと「YouTube」で、どうやって演奏しているのかを、目でチェックすることさえ簡単にできちゃう。ただ、利便性とは“長所”であると同時に“短所”でもあって、ときに人の成長を妨げてしまうんです。

 

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バナー:空の「青」をそのままに、徹底的に再現すること
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この情報は2016年8月17日現在のものです。

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