連載
東京マラソン2016┃10th Anniversary vol.2

自分にミッションを課して走る男たち

2007年に始まった「東京マラソン」が2016年2月28日、第10回大会を迎える。3万7000人のランナー、1万人のボランティア、そして160万人が沿道に駆けつけ、いまや同大会は東京の冬の風物詩となった。毎年30万人以上が出走権を求め、関西大学の調べによるとその経済効果は271億円(2013年)にもおよぶ。なぜ、東京マラソンはこうも人を熱くするのだろうか。

 

『For M』では、「東京マラソン2016」が10回記念大会に向けて高まっていくボルテージを3回に分けて取材する。同大会の主催者、支援者、そして、いちランナーとして、その熱源に迫る。

 

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9月某日、Twitterのタイムラインが「#東京マラソン」のついた歓喜と悲哀のつぶやきで埋め尽くされた。狭き門を通過し東京マラソンのランナーに当選した喜びの声と、30万を超える応募数から無念にも落選した大勢の悔しさの声だ。

 

東京マラソンを走る全3万7000人のランナーのなかには、己にミッションを課して42.195kmを走るランナーたちがいる。東京マラソン財団が協働するチャリティ団体に対し、10万円以上を寄付して出走するチャリティランナーのなかでも、クラウドファンディングの仕組みを使って出走権を得た「チャリティランナー」たちだ。自ら支援内容を発信しサポーターから寄付金を募って、彼らの想いとともに完走をめざす。東京マラソン企画第2回目となる今回は、熱い想いをもって走る3人のチャリティランナーとチャリティを統括する担当者に話を聞いた。

 

 

第1回目>>>大都会・東京が舞台の巨大フェス

 

 

撮影:萩原昌晃 取材協力・画像提供:東京マラソン財団 文:ヤマダタクリュウ(For M)

画像:菅野克広氏

男四十、これまでの人生の恩返しをしたい。

菅野克広 40歳┃大手アパレルブランド販売員

 

菅野克広、40歳。彼が今大会、チャリティランナーとして走る理由は彼のバックグランドと東日本大震災にある。本人含め4人兄弟すべて女手ひとつで育ててくれた母親のおかげで、彼は大学まで進学することができた。奨学金や親戚から借りた金額は総額600万。大学卒業後に就職して30歳のときにようやく完済したが、母親はじめ親族など周囲の支えがあってこそいまの自分があると感じている。東京マラソンで走ることは、そうした人たちへの恩返しにほかならない。

 

そしてもうひとつ、彼がチャリティに参加しようと思ったのは、東北の震災がきっかけだった。これまで多くの人に支えられてきた人生だったが、「何もできずになかなか一歩を踏み出せなかった」と語る。以降、毎年のように東北に通い、ときには仕事の終わりに夜行バスで被災地に向かい、翌日の日中ボランティアに参加して、あくる日また店頭に立つということもあったという。

 

東北に通い続けるなか、ランナー仲間の一人が東京マラソンにチャリティランナーとして走るという話を聞いた。自身も学生時代から駅伝選手としてならしてきたが、走ることで東北の力になれるとは考えつかなかったこと。

 

東北でのボランティアのことを周囲の仲間に話したとき、「力になりたくても、どこに寄付すればいいか分からない」という声を聞いてきたが、そういった仲間たちから出資金を募れば自分が走ることで東北の力になれると思い、クラウドファンディングを利用したチャリティランナーへのエントリーを決めた。すると、目標金額はあっという間に集まった。過去にも東京マラソンに参加したことはあるが、今大会はサブ3.5(※)というノルマと大勢の想いを背にスタートラインに立つ。

 

「40代にもなると自分にあえてミッションを課して取り組むものが少なくなった。来年はより多くのチャリティが集まるよう周囲にも勧めていきたい」

 

※サブ3で完走タイム3時間以内、サブ4で4時間以内のこと

 

■早期目標達成を実現した東京マラソンのチャリティ事業

画像:東京マラソン財団・名越氏

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チャリティランナーの定員は3000人。一人10万円以上の寄付が出場の条件となる。そのほかの国内スポーツチャリティと比べれば、東京マラソンで集まる約3億円の寄付金は国内でも類のない成功例といえる。

 

しかし、海外に目を向けるとロンドンマラソンは東京マラソンとほぼ同数のランナーでも2015大会には90億円以上の寄付金が集まった。前回のインタビューのとおり、これからの東京マラソンはチャリティをさらに普及させ、根づかせていく段階に入った。東京マラソンの、そして日本のチャリティ文化について、東京マラソン財団の事業開発部長・名越龍也氏に聞いた。

 

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「チャリティランナーへのアンケート結果で、参加を決めたのは『東京マラソンに出場したい』という理由が8割を占めているのが現実です」

 

東京マラソンのチャリティ事業は2011大会の開始当初から「ランナー3000人、寄付金3億円」を目標に掲げて取り組んできた。6年目となる今大会でチャリティランナー3000人の応募、そして4277件の寄付により、3億1232万5711円(2016年2月19日現在)と、想定よりも早く目標を達成した。「確実にスポーツチャリティは根づいてきていることを実感する」と名越氏は語る。

 

当初は寄付金を受け取る事業者側(2016年現在13事業)も寄付金の運用に慣れておらず、回数を重ねるごとに有意義な取り組みを行なえるようになってきた。寄付者には大会終了後の3月末に事業者から活動報告のレポートを通して成果を報告し、喜びを分かち合えるよう取り組みを行なっている。

 

だが、冒頭のアンケート結果のように、チャリティランナーの多くが寄付を動機としていないのは事実だ。目標を達成できたのは喜ばしいことだが、やはり「寄付」に対して、日本では「えぇかっこしい」と見られがち。それを変えていくには長い時間を要すると名越氏はいう。

 

■東京マラソン財団が取り組むチャリティ活性化策

チャリティランナーの寄付金を受け取る13事業者のなかに、東京マラソン財団が独自に行なっているチャリティ「スポーツレガシー事業」がある。アスリートの強化育成を目的として、競技力の向上だけでなく、取材対応や語学力など人間力の育成に投資されている。また、身近なものであれば、ランニングコースの設置(現在は隅田川沿いの整備)やコース内にチップを埋め込み走行距離を換算できる設備の計画など、スポーツ文化の礎を築く取り組みに充てられている。

 

東京マラソンでも徐々にこうした取り組みが広がっているものの、かたや海外に目を向けると、さらに活発にチャリティ活動が行われている。たとえば、チャリティ活性化のためにニューヨーク・ロードランナーズ(NYマラソンの母体)が取り組む施策は興味深い。チャリティランナーの寄付が集まる事業者が参加希望者に積極的にプロモーションし、寄付を募っているのだ。

 

規定の金額より多く出資した人には追加で特典を設けるなど、チャリティを受け取る側が具体的な施策を打ち出し、チャリティ活動を活性化させるための取り組みが行なわれている。こうした取り組みは東京マラソンでも計画中で、今大会からはフィニッシュ後に事業者が主催してパーティを開くなどチャリティランナーと交流をはかり、もてなす催しがいくつか予定されている。

この情報は2016年2月26日現在のものです。

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