連載
vol. 27┃GORE-TEX®

工業製品として生まれた絶縁体にルーツを持つ

マーケティング┃市塚夏子(いちづか・なつこ)

日本ゴアに入社後、メディカルディビジョンを経てファブリクスディビジョンへ。GORE-TEX®プロダクトのマーケティングで主にアウトドアカテゴリーを担当。販促プロモーションや、スタッフへの勉強会、PR活動などを行う。

 

 

■GORE-TEX®メンブレンとは「薄い膜」のこと

 

アウターの歴史とは、寒さ、雨、雪、風からいかに身を守るかという点で進化してきたといっていい。なかでも一番厄介なのは雨、雪、風だ。それは何も過酷な山に挑戦するアスリートだけでなく、日常生活やキャンプ、野外フェスといったライトな状況でもすぐに実感できることだろう。

 

そのため、古くはコットンにオイルを塗ったり、マッキントッシュコートのようにゴム引きの生地を使うなど、さまざまな試みがなされてきた。その後、1960~70年代にはコットン60%、ナイロン40%からなる混紡生地、通称“ロクヨンクロス”がアウトドア界を席巻。これは、雨に濡れるとコットンが膨張してナイロンとの生地密度が高まることで水の侵入を防ぐというものだ。しかし、それでもまだ完全防水ではなかった。

 

そんな状況を一変させたのがGORE-TEX®プロダクトなのである。GORE-TEX®プロダクトとは「メンブレン」と呼ばれる「薄い膜」を挟むように生地を貼り付けたもの。このGORE-TEX®メンブレンは、水滴は通さないが、それよりも小さい分子である蒸気は通すという性質がある。つまり、雨は通さないが、衣服内の蒸れは逃がしてくれる「透湿性」を備えているのである。さらに、防水であるということは、防風性能を備えていることを意味する。

 

画像:GORE-TEX®の仕組み

■GORE-TEX®プロダクトはコンピューターケーブルから生まれた

 

コンビニでも買えるビニール製の安いレインコートを着たことがある人は分かると思うが、水を通さないということだけならビニールでも問題はない。しかし、それを着て動き回った瞬間、内側が曇りはじめ、最終的には水滴となってインナーの衣服が濡れてしまう。これは「透湿性」がないことによって生じるものだ。アウトドアウェアの紹介文でよく見る「防水透湿性」とはそういう意味なのである。

 

では、どのようにGORE-TEX®プロダクトは誕生したのか?

 

創業は1959年のアメリカ。もともとは化学薬品会社・デュポン社の研究者だったウィルバート・ゴアとジェネヴィーヴ(ヴィーヴ)・ゴアが、自宅の地下室で夫婦で立ち上げた。のちにデュポン社の商標となる「テフロン」の研究者であったビル・ゴアは、まだ開発途中だったこのフッ素系樹脂「PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)」の可能性を信じて独立。当初は、電線の絶縁体(ワイヤーおよびケーブル)として同素材を販売していた。

 

市塚:1960年代末から70年代にかけては、商業用コンピューターが出始めたころ。ケーブルの需要が伸びた時代でもあったんです。

 

主に工業製品としての「PTFE」の開発を進め、創業から10年後、すでに共同研究者となっていた息子、ボブ・ゴアが新たに発見したのが「ePTFE(延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン)」なる素材だった。

 

これは、ある一定の条件化で「PTFE」を伸ばすと、その塊の中に無数の細い気泡が入るというものだった。もちろん、当初は衣料向けというわけではなく、あくまでも工業製品として開発されたもの。これは公式見解ではないが、この発見にいたったのはゴアファミリーがキャンプ好きだったことがひとつのきっかけと言われている。水は通さないが蒸気は通すという特性を衣料向けに応用するという発想は、キャンプ遊びのなかから生まれたと考えても不思議ではない。

 

画像:GORE-TEX®

■現在の成長分野はメディカル製品

 

市塚:弊社に残っている資料で唯一分かっているのは、1976年にアーリー・ウィンタースという会社が、初めてアウターに採用したということです。

 

「Early Winters(アーリー・ウィンタース)」は1980年代まで存在していた、シアトル発の総合アウトドアブランド。現在でも、古着市場などで見つけることができる。なお、各社がアイテムごとに「世界で初めてGORE-TEX®メンブレンを採用した」と謳っているが、ゴア社にはそれを確かめる資料は存在していないとのこと。

 

その後、GORE-TEX®プロダクトが一般に普及したのは1980年代。日本はスキーブームだったこともあり、当初はスキーウェアに多く用いられてきた。当時はジャパンゴアテックス(現在・日本ゴア株式会社)という会社名で、「PTFE」などポリマー製品の開発をおこなっていた「株式会社潤工社」との共同出資であった。

 

「80年代に一般的になった理由のひとつとして、1979年に『ゴアシーム®テープ』が開発されたことが挙げられます。それまではユーザー自らで縫い目に専用の接着剤のようなものを使い、目止めをしていました。しかし、手間ですし、確実な方法ではなかったため縫い目の穴から水分が侵入してしまうんです。それを防ぐために、縫い目部分にシームテープを貼り付けるようになりました」

 

一般的には衣料用のGORE-TEX®プロダクトで有名なゴア社だが、現在も「ePTFE」を応用した工業製品など、多岐に渡った開発を続けている。現在の成長分野は、人工血管などに使用されるステントグラフトといったメディカル製品。さらには、「エリクサー®ストリングス」の商品名で知られるコーティングを施したギターの弦(汚れを弦から保護し、高い音質を維持)、燃料電池車の部材などがある。

 

人工血管など医療用として使われていることからも分かる通り、GORE-TEX®メンブレンに使われている「ePTFE」は耐久性が高い。しかし、メンブレンを貼り付ける生地や接着剤、またドローコードなど各種パーツは劣化するので、衣料品としての寿命があるのは明確な事実でもある。

 

市塚:しっかりとケアされていれば、10年近く使っている方もたくさんいらっしゃいます。

 

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続いてはGORE-TEX®プロダクトの種類と、気になるお手入れ方法を紹介しよう。長年疑問だった、プロダクトのケアについては、意外な事実を聞くことができた。

 

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