連載

「人と会う」は「最新技術」を凌ぐ。
谷田光晴の仕事とは

数多の話題映像を手がける人気クリエイターの本懐

昨秋、道頓堀名物グリコ看板の6代目点灯式が行われた。あまり知られていないが14万個のLEDによる映像は、日本古来の伝統色を取り入れて制作され、ビスコやポッキー、お菓子の箱が降ってくると地球の俯瞰図から大阪の街へ。ランナーはそのまま京都、富士山を越えて東京まで走り抜く。

この映像を監修し、点灯式を演出したのが、クリエイティブディレクター谷田光晴だ。東京ドームシティにこの夏オープンした宇宙ミュージアム「TeNQ」メインシアター「シアター宙」のコンセプト設計からコンテンツの総合監督として関わった仕掛け人であり、日本人としていち早く3Dプロジェクションマッピングを手がけてきた映像作家でもある。

「2011年と12年には、奈良公園のど真ん中、奈良国立博物館旧館において、当時は日本最大級と言われた幅60mのプロジェクションマッピングを手がけました。13年には愛知県小牧市で小牧山城築450年記念事業にも参加して映像を制作しましたが、実はもっと前からプロジェクションマッピングを手がけていたんです」。

聞けば2009~10年頃には、既に上海で海外の大手クライアント相手にプロジェクションマッピングを行っていたという。そのため帰国後に爆発的に増殖していたプロジェクションマッピングブームには半身で向き合う立場をとる。

「ブームになってしまうと、価格競争などの消耗戦になりかねませんから。むしろいまは映像に意味をもたせたり、映像を通して人に参加してもらったり、人を感動させたり、そういった仕事をもっと根底から手がけていきたいと思い独立を決意しました」。

谷田光晴

映像クリエイターからメディアプランナー/クリエイティブ・ディレクターへ

谷田のオフィスは大阪・天満橋にあった。近くを流れる大川沿いは桜の名所として有名な町である。株式会社SPOONとは、2013年7月に谷田が独立設立した会社名だ。会社が社会の公器、つまり器なら、我々はもっとも小さな器=スプーンである、と命名したものだが、それは大きな器をかき混ぜて波風を立てるスプーンのようにも聞こえる。

大学卒業後フリーのVJとして映像制作を行ってきた谷田が、映像音響演出の大手タケナカに入社し、そこで成し遂げてきた数々の大仕事が、元来の独立マインド旺盛だった谷田の背中を押したように聞こえるかもしれない。しかし谷田の仕事への向き合い方はフリーの頃、会社員時代、そして独立間もない今も変わらない。いまの谷田の肩書は映像クリエイターではなく、メディアプランナー/クリエイティブ・ディレクターである。

「タケナカに入社したのは、個人ではどうにもならない最先端の技術が学びたかったから。ある仕事でタケナカと組んだとき、タケナカと周囲のスタッフの方々にエラい迷惑を掛けてしまったんです。プロが使うハイエンドの専門技術や映像企画は、僕のクリエイターとしての限界を痛感させました。これは、映像と音響の世界では最新鋭の技術を持つ企業でイチから学ばないといけない、と」。

ところが最新の技術を知れば知るほど、谷田は技術力を競うことへの興味が薄れていく。

「むしろ普遍の価値への興味が強くなってきたんです。何故、その映像が必要なのかとか、何処でどんな人たちに、何のためにその映像が必要なのかとか、そういう事なんですが、奈良公園や小牧山城の仕事は、地域とそこに生きる人たち、歴史という普遍の価値への礼賛。TeNQの”シアター宙”は現在と100年先の世界を繋ぐビジョンを持って作ったものなので、流れている映像の監督もさせていただきましたが、それよりも、大切なことは、シアターそのもののアイデンティティでもある、”みんなで囲んで宇宙から地球を見下ろす”という絶対的な感動体験を生む普遍的な部分を創れた事にあります。」。

谷田光晴

最新技術を扱ううえで一番大切なことは、もっともアナログなこと

谷田の仕事は最新の映像・音響の技術を扱う。映像制作のためのPCもソフトもタブレットも、スマートフォンも、すべてが最新鋭でありテクノロジーの最先端に囲まれる生活である。だが本人は「僕は、最新機材をいじれない。画像ソフトを使いこなすだけの技術も持っていない」と公言していた。もちろんプロフェッショナルとしての一定の技術を持ったうえでの言葉ではあるのだが、同時に「分からないことだってある。そんなときはそれを知っている人に聞けばいい。自分がすべてをマスターしなくたっていい」とも話していた。

「僕の仕事の大半は人に会うこと。メールと電話だけでは絶対に済ませません。自分がステップアップするときに必要なのは、人に会うことだと信じているから、必ず会いに行きます。おかげで交通費が経費の大半を占めています(笑)」。

人に会うたび、必ず次への繋がりが生まれるという。最新技術を駆使する仕事は、「人に会う」という、アナログな作業によって生み出されていた。そこには、ひとりですべてを背負い込むのではなく、多くのプロが集合して大きなプロジェクトを成し遂げるという意味が見えている。何でもできる人間は、ひとりですべてをこなそうとするために、大きな仕事はこなせない。むしろ、自分はこれしかできないという人間こそが、大きな仕事を軽々と成し遂げる。谷田も言っている。

「自分1人ですべてを行うことは絶対に無理です。世界中には、その分野のプロフェッショナルが必ずいます。ならば自分ですべてをやるのではなく、自分より高い次元でそれができる人たちに出会えばいい。そういった人たちを”憧れの存在”から”仲間”にしてしまえば良いんです。それができれば、自分の能力が変わらなくても、できることは無限に増えていきます。最初の一歩は、自分にできることを人に話すのではなく、やりたい事を恥ずかしがらず多くの人に話し続ける事です。そうすれば必要な出会いが、必要なタイミングで訪れると僕は信じています」。

この情報は2015年1月7日現在のものです。

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