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東京風景、街角の味
Vol.24 「藪御三家」の蕎麦を食す
日々変化を遂げる都市、東京。そんな中にあって常に大人の男達をひきつけ、愛されつづける街がある。その街の味を紹介しよう。12月の街は、浅草。
イメージ
そばガイド:井上 明
プロフィール


軽妙な動きで観客を魅了する鯔背なエノケン、エスタブリッシュメントの家系に育ち、声帯模写やウィットに富んだ寸劇で洒脱な世界を繰り広げたロッパ。

浅草は、華やかな東京喜劇の黎明とともに栄え、東洋一の歓楽街へと発展していったのである。そして、2004年も暮れようとしているいま、浅草には郷愁のデジャビュがある。

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それは、なぜか。往年の浅草は、地方都市の繁華街のデザインが、こぞって模倣するひな形であった。1980年以前は、日本全国どこへ旅しても、繁華街の雰囲気に「浅草的」なるものを発見できた。でも、いまは地方都市のデザインはこぞってリニューワルしてしまい。それぞれの個性が花開く時代となった。その結果、かつては繁華街の権化であった浅草が、往年のデザインのままに取り残されることになった。それが哀しくも懐かしい、不思議な魅力を提供している。

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世界の国々から観光客が押し寄せる浅草寺門前の仲見世。東洋のコニーアイランドとでも呼びたい、貸切ができる小遊園地「花やしき」。江戸趣味の粋な小物を並べている店々。昔にタイムスリップしたような時空間旅行の気分が、楽しめる。

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そう、浅草はいまふたたび、「いい味」を出しているのである。
それでは、この愛すべき浅草に繰り出してみよう。

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浅草へのアプローチは、東京メトロ(イヤだなこの呼び方「E電」みたいで)の銀座線が王道だが、水上バスで橋を鑑賞しながらのルートも悪くない。で、意外に面白いのが都営浅草線。來る電車ごとに行き先も、車両も、止まる駅も、もうメチャクチャで、「坩堝」という表現がぴったりくるアナーキーな路線。二つの空港を結んでいる路線としても機能しており、東京の交通網の皺がみんなここに寄せ集められているような感じなのだ。この日は、こんな総クロスシートの京浜急行の電車が乗り入れていた。なんだか、遠い異空間へ旅立つような気分になった。

都営地下鉄の浅草駅は、深い地層の下にあり、長い階段を上り詰めて地上に出てくるという体脂肪過多の都会派人間に配慮した健康設計となっている。いちばん蔵前よりの出口を使うと、めざす並木通りまでは目と鼻である。

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本日訪れるのは、「並木の藪蕎麦」である。アイストップに雷門を望むという浅草中の浅草というロケーションに、昔ながらの佇まいを見せている。

看板をよく見て欲しい、そばの「ば」は、普通「者」を宛てるの(『む゛』のように見えるやつ)だが、「波」を変体仮名として宛てており、ちょっと珍しい。「ぶ」の字はテンプラでもおなじみの「婦」である。

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さて、並木の藪…池之端と神田の藪をあわせた「藪御三家」の一員である名店中の名店。醤油に一切加熱せずに、仕込んだ物を土中の甕に入れて長期間寝かすという手間暇かけた「生返し」は、伝説的な味覚である。ただし、この汁…そんじょそこらのそば屋の汁と同じように、たっぷり浸してしまったら、辛くて大変なことになる。落語じゃないが、たくり寄せた麺の下三分の一をちょいと浸して、つつーっつと手繰るのが、ここんちの楽しみ方だ。

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席についたら、早速「板わさ」と「蕎麦前(日本酒のこと)」を所望。酒は店内にどーーんと据えられている菊正宗の樽酒だ(630円)そして、どうでしょう。このお盆のオサマリのよさは。至福が隙なく満たされている感じですね。

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並木のざる(盆ザルの天地を返して提供する有名な一枚)は、粋なその姿が人口に膾炙せしむるに足る一品だ。本日は、あまりにも有名なざるはさておいて、そば屋の釜前さんの腕前が問われるという「玉子とじ(900円)」をお願いすることにした。

寒い冬に愉しみたい、優しい風合いの一杯。ざるの汁とはちがって、一滴残さず飲み干せる位に仕立てられたかけづゆと蕎麦の上に、一枚の浅草海苔が敷かれて、その上にふんわりと溶かれた卵二個分がのっている。見事だ。

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さあて、こういうそば屋に長っ尻は禁物。

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くーっとヒッカケて、つつーっと手繰って。おもむろに、どこか別の粋なトコロに河岸を変える。これが浅草の正しい楽しみ方というものです。

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今宵あたり、あなたも、いかが?
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【並木 藪蕎麦】

交通:東京メトロ銀座線・都営浅草線・東武線浅草駅
営業時間:11時30分〜19時30分
定休日:木(定休日が祝日の場合は翌日休)
料金:ざる650円、鴨南そば1700円
駐車場:なし





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