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For M トップページ 連載「男は小物でエゴを語る」
連載 男は小物でエゴを語る
Vol.20 50万円のキーボードは進化した筆記具
チラリと見える小物にこそ、男の個性が投影される。
だからこそ、見た者が「オレも欲しい」と羨望するくらい、
ひと味違うモノたちで身を包みたい。
今こそ、小物で力強き自己主張をはじめよう。
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男のこだわりグッズ」 ガイド: 納富   廉邦
プロフィール
モノ系ライターとして活躍するガイドが、貴方とこだわりグッズとの出会いをサポート。


キーボードは現代の筆記具であるという思想

PFU「HHKB PROFESSIONAL HG JAPAN」
525,000円(税込/完全受注生産)

万年筆などの筆記具にこだわる人は沢山います。普段は数万円のモノを使いながら、いざという時のために数十万円の「この一本」を持っているという人や、そういう一本を持ちたいと思っている人は普通にいるでしょう。ところが、パソコンのキーボードとなると、意外にこだわらない人が多いようです。

実際のところ、現代に生きていると手で書くよりもキーボードで書く方が多いのではないでしょうか。そう考えると、今やキーボードは単なる入力装置ではなく、筆記具の一つだと捉える方が自然なのかも知れません。ただ、そういう考え方は、まだあまり浸透していないのか、高いキーボードというと、エルゴノミクスデザインやキー配列など、キーのレイアウトや機能などのアップになりがちです。

万年筆のように、触り心地が良いとか、書き味がなめらかとか、使われている素材が珍しいとか、独自の調整ができるといった、「書く」行為を楽しくしてくれるような、発想のキーボードは、ほとんどありませんでした。そんな中、1995年から、東大名誉教授の和田英一氏が提唱する「パソコンは消耗品だが、キーボードは大切な、生涯使えるインターフェイスだ」というコンセプトに基づいた、こだわりのキーボードを作り続けてきたメーカーがあります。それが、今回、一台525,000円(税込)のキーボードを発売したPFUというメーカーです。

極上のキータッチを実現するための様々な冒険

手で何度も漆を重ね塗りしていく

この「HAPPY HACKING KEYBOARD PROFESSIONAL HG JAPAN」(以後、「HHKB PRO HG JAPAN」と書きます)は、JAPANという名前でも分かるように、キーが漆塗りになっているのが最大の特徴です。一個一個のキーを手で何回も重ね塗りしていくのですから、この価格はむしろ安いと言って良いのかも知れません。とはいえ、このキーボードが漆塗りであることは、単に高級感を出すためだけではありません。

今回、この「HHKB PRO HG」シリーズにはスタンダードタイプというか、キートップが漆塗りではないバージョン「HHKB PRO HG」も発売されています。こちらは、半額の262,500円(税込)。つまり漆無しでも普通では考えられない価格になっているのです。ガイド納富は、実機をお借りして、その価格の秘密に迫ってみました。

PFU「HHKB PROFESSIONAL HG」
262,500円(税込/完全受注生産)

まず、このキーボードの最大の特徴は、ボディがアルミ削り出しの一体成形だということ。そのズッシリとした重みがキーボードをしっかりとホールディングしてくれるので、打鍵時の余分な振動を感じません。これは初めての体験でしたが、実際のタイピングにおいて想像以上の心地よさが得られました。ストロークは深いけれど、強く打っても軽く打っても、きちんと入力されるのは、従来のHAPPY HACKING KEYBOARDの特徴。その特徴がさらに強調されるような感触なのです。

背面は美しい鏡面仕上げ。無料で名前も刻印できる

ハイスピードで打ってもフレームはびくともしません。それは、フレームがしっかりした車が、ドライバーの意志を忠実に伝えてくれるのと同じ感覚なのだそうです。確かにキーを打つ指先にも感じられました。優秀な万年筆は、書きたい場所にスムーズにペン先が行くのですが、このキーボードでも同じような感覚が味わえます。それは、アルミのボディと、無接点型の押し込まなくても入力できるキーの構造の合わせ技から来るものです(無接点型のキーボードの詳細は次のページで)。

世界に認められた高機能コーティング技術としての漆

輪島塗の技法をキートップに応用。最高のコーティングとして、いつまでもキートップを美しく保つ。刻印は無いので注意。

漆無しでも今までにないキータッチと快適な入力環境が得られるのですが、実は漆も単なる飾りではありません。何層にも塗り重ねる面倒な技法が、みそ汁のお椀や重箱などで普通に使われ続けているのは、漆が持つ様々な特性によります。まず、その耐久性です。また抗菌に優れ、吸湿性があり熱を伝えにくいのです。道具をコーティングするのに、これほど向いた素材も滅多にありません。漆はかぶれると言って嫌う人もいますが、それは漆の木の話。精製した漆はかぶれません(食器に使われているのですから当たり前ですね)。

元々、日常の道具のための漆を極めてきた輪島塗りです。長く毎日使われる道具を美しく、機能を損なわずに保つのに、最適だったからこそ、漆塗りは現代まで受け継がれている技術なのです。しかも、使い込むほどに味わいが増します。キーボードのコーティングに、これほど適した技術は滅多にありません。しかも、キートップの縁の部分の漆が流れ出さないように、金粉をまいて金に漆を吸着させるという技術も用いられています。それによってキーの縁部分が指に優しい稜線を描いているのです。

生涯の相棒として、パートナーとしてのキーボード

キーボードの傾斜角を細かく変更できる工具付き

キーを打つことが快適だと、長く入力していてもあまり苦にならないものです。それは、お気に入りの万年筆で書く心地よさに近いものが確かにあると感じました。無接点方式による入力の確かさであり、キートップの絶妙な曲線具合であり、付属の専用工具を使って1度単位で変えられるキーボードの角度だったり、打鍵をがっしりと受け止めるアルミのボディだったり、考え抜かれた必要最小限のキーレイアウトだったりと、この小さなキーボードに注ぎ込まれた多くの技術の集積が実現した「心地よさ」なのです。

さらに、漆の優しい触り心地や、耐久性。そして使えば使うほどに深みを増していくのですから、正に一生の道具と言えそうです。そして、いつでもどこでも使えるように、持ち運びが簡単なA4ハーフサイズというコンパクトな設計と、ただUSBに挿すだけで、ほとんどのPCで使える簡便さを実現。それも、キーボードを筆記具同様の生活や仕事のパートナーとして捉えているからです。実際、使ってみたガイド納富も、漆バージョンは価格的にも、またキートップの刻印が無いことからも、ちょっと手が出ませんが、スタンダード版の方ならかなり欲しいと思ってしまいました。それは、いつか持ちたいと思っている高級万年筆への憧れに似ているように思えます。

次のページでは、手が届く価格帯の「こだわりキーボード」をご紹介します



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